#7 幼少期7
ある日曜日の朝。
目が覚めて、眠い目をこすりながら真っ暗なリビングに行く。
明かりをつけて、水道水を飲もうとした。
そのときにふとダイニングテーブルを見ると一枚の紙きれがあった。
紙には「さよなら」の4文字だけが書かれていた。
母がいなくなった話
少し時間が経つと姉と父もリビングへとやってきて、その紙の存在に気付いた。
姉は少し泣いていたが、私は涙も出なかった。
父は静かにタバコを吸っていた。
前触れなど一つもなかったと思う。本当に突然のことだった。
次の瞬間何が起こるかわからない人生ではあったが、起きたときに家族がいなくなるとは思いもしていなかった。訳が分からなかった。
私は捨てられてしまった。
私がどうしようにもない子供であったから、母は残していったのだ。
愛することができなかったから置いて行かれたのだ。
共に日々を過ごす価値がなかったから置いて行かれたのだ。
私は血のつながった親にさえも見捨てられるような人間でしかなかった。
すでにぽっかり穴が開いた心じゃ涙も流せない。
ただひやりと胸が寒くなった。
ー - -
今でも鮮明に思い出せる。
母の字も、姉のパジャマ姿も、父の吐く紫煙も。心の奥底にこびりついている。
この日に一度世界は終わってしまった。
もうだれも信じてはいけない。誰かに愛してもらえるような価値はない。親にも愛されない私が、生きている意味なんてどこにもない。
今日微笑みかけられても、好きだと言われても、日が落ちて登れば手のひらはひっくり返るのだ。
長年一緒に生活した親でさえ、私を生んだ親でさえ、無償で愛してくれるはずの親でさえそうなのだから!
ただ、悲しかった。大きな泣き声をあげたかった。
どうしてって、悲しい、さみしい、置いてかないで、愛してって、泣きたかった。