#5 幼少期5
むなしさの募るとある日、私は母にねだった。
どうしてもお弁当が作ってほしいと、頼み込んだのだ。
トマトの話
幼稚園給食の契約もしていないがお弁当を作ってもらえない結果、
見かねた先生に給食を恵んでいてもらっていたが、
劣等感とむなしさが募った5歳児がようやく母に、
ママお弁当幼稚園に持っていきたいと言葉にした。
これがのちのトラウマを作ることになるとも知らずに頼み込んでしまった。
お昼に珍しくお弁当を携えていた私は誇らしげな顔であった。
給食を今日はお弁当があるからとお断りし、ついにその時を迎えた。
開いたお弁当の中に入っていたのは白米とミニトマトとイチゴだった。
ミニトマトとイチゴはなぜかぐちゃっとしていて汁が出ていて、白米にしみこんでいた。
おかずカップなんてものはない。
とても私は嬉しがっていたのだ。みんなが親が作ってくれたんだよというお弁当を私も持てていたのだから。ようやく夢がかなったというわけだ。
お弁当の中身に違和感を覚えることはできなかった。
何が普通なのかを知らなかったから。
私は嬉々としてミニトマトを口に運んだ。
ようやくあこがれていたお弁当を食べられる。
笑顔で口に入れて咀嚼した後、私は吐いた。
ー - -
本当にびーっくりした。
まさか腐ったものがお弁当に入ってるなんて思わんよね、
ていうか腐ってるがどういうことかも知らんよね。
あこがれてた「お弁当」だったらもう何でも口に入れてた。
イチゴの味がするぐちゅぐちゅなトマトが今もトラウマ。
そしてこれ以降もうお弁当は頼まんくなった。怖いからね。
たぶん母親に悪気があったわけでもないんじゃないんかなとさえ思ってくるんよね、
腐ってることがあの人自身にも判別つかんから大丈夫と思って入れたんやろね、
常識ってものが分からんかったんやろうね。
本人は頼みごとに応えてあげただけなんやろね。
もうどうしたらよかったんかも分からん。